クリエイティブ・ディレクター篠塚正典氏とプリニオリーバを展開する日本オリーブ株式会社社長 服部芳郎が語る オリンピック・シンボルマークとブランド・デザインの共通点 [特別対談] Vol. 1
古代ローマ、神話の時代から特別な力を認められ人類にとって必要不可欠だったオリーブ。
その恵みで、表面的な美ではなく人として良く生きるための商品を世の中に届けたい。その想いをデザイン面においても体現するため、プリニオリーバはブランドロゴ、パッケージ開発を長野冬季オリンピックシンボルマークを始め数々の有名ブランドデザイン開発で世界的に活躍されているクリエイティブ・ディレクター篠塚正典さんにお願いしました。
今回は、篠塚さんとプリニオリーバ代表の服部芳郎がブランド・デザインの開発秘話やデザイン哲学等について語り合った対談を3回に分けてお届けいたします。
第1回目は、篠塚さんのデザイン哲学やプリニオリーバのブランドロゴやパッケージ・デザインがどのような経緯で生み出されたのかについてです。
オリーブについて皆が知らなかったものを感じてもらえるような形が作れるか?
― プリニオリーバという新しい製品、新しいブランドのデザイン依頼があった時、まずどんなことを思われましたか?
篠塚氏(以下、篠塚): オリーブって聞くとオリーブオイルしか思いつかなかったので、それを使った化粧品なんだとオリエンテーション聞くまでは思っていましたが、オリエンテーションを聞いて、その後色々と服部社長からコンセプトを伺って、ただの化粧品じゃないと。葉も花も実も全部使って凄いものを作ってるというのを聞いて、これはただものじゃないんだという感じを受けて、それをどう解決しようかなと思いました。
服部(以下、服部): 日本でもトップクラスのデザイナーの方であり、長野オリンピックのロゴも手がけてらっしゃる方だと伺った時に、ちょっと失礼な話ですけど、その人がデザインするんじゃないだろうなと思ったんです。まさか直接手がけてもらえるとは、というのがありました。
篠塚: 服部社長から本当に細かく説明をお聞きしたので、オンラインでしたけど伝わりましたよ、その想い。新しいブランドを作るというときに、やはり想いというのが一番大切だと思うので。ああ、真剣に考えて作ってるんだなというのがまず感じられましたし、それで詳しいことを聞くと、これは本当に新しく凄いものを作ろうとしてるんだなというのは伝わって来ましたね。
服部: オリーブのことについてとか、そのオリーブの歴史的な意味だとか、今一般に思われているオリーブの姿とこう違うんだということを説明させていただいて、篠塚さんがそれに対して「あ、こういうことですか」とか「まあこうだよね」ということをきっちり返してくださったので、凄く話しやすかったです。伝わったなという安心感がありましたね。
篠塚: オリーブの持つ歴史的な言われと、神秘的なパワーを持つものを肌につけたら良いというのはよくわかりましたし、そういう昔から存在するパワーを活用するんだというのはわかったので、それをどうブランドにしようかというのを一番重要視しました。秘めたるパワー、オリーブのパワーをどうブランドマークに反映するか、どう解決しようかと。このブランドマーク、ただPを使って作るというのは簡単だけど、そこにどうオリーブについて皆が知らなかったものを感じてもらえるような形が作れるのか、というところに時間をかけました。
ロジックを積み上げたところに自分のテイストを加え、共感を得る
― デザイン開発のプロセスを、長野オリンピックのシンボルマークを含めどのように考え、進めているのですか?
篠塚: 基本的には、なるべくロジカルに作ろうと思っています。マスコミュニケーションなので、シンボルマークはたくさんの人に同じメッセージを伝えなければいけない、見た人が同じ印象を受けなければならない。そのために一番大事にしているのは、常識的なところ。誰もがこういうのを見たらこういう風に思うだろうな、みたいなところは絶対外せないので、そこを一番重要視して作ります。
それを形にしていくプロセスとしては、やはりロジックを大事にしなきゃいけないので、いただいた資料は全部読んで、現状を聞けることころは全部聞き、将来のビジョンをどう思ってるのか全部聞いた上で、それを綺麗になぞっていき、そこに僕のテイストを入れる感じです。あくまでもテイストから先に入るデザイナーの考えが先に立つのではなく、ロジックを積み上げたところに僕のテイストを入れる感じで作っています。それが見た人に共感を呼ぶものができると思っているので、基本的にはそういうプロセスでデザインしています。
服部: 私は芸術家、ファインアートの世界の方と商業デザイナーの方の区別があまりついていなかったところもあり、そのデザイナーの方が持っている表現したいことを表現していくという順番なのかなと思ったら、お話をしているとこちらが課題として持っていて、伝えたいことに対し引き出しの中から、「こうかな」というように投げ返してくださるからすごくよくわかりました。
篠塚: 僕らは商業デザイナーで、芸術家、純粋芸術との一番の違いは、コミュニケーションの違いなんです。純粋芸術、ファインアートの人はシングルコミュニケーション。たくさんの人に発信しない、誰か一人でもいいって言ってくれる人がいたら、それで成り立ちます。僕ら商業デザイナーはそうではなくマスコミュニケーションなので、たくさんの人に発信するのを前提で作るので、数字的に見ても半分以上の人がいいって言わないと成功と言えないと思っています。100人いたら51人の人がいいって言ってくれれば、まあまあ数字的に見ても成功というか、悪くはないんじゃないかと。本当は、100人中100人の人がいいって言ってくれるものがベストなものだと私は思って作っています。
いかに国境を越え、言葉の壁を超えてコミュニケーションが取れるか?
― 長野オリンピックのシンボルマークを作った際は、どのようなアプローチで進められたのでしょうか?
篠塚: オリンピックみたいな世界規模のマークを作るというのは、やはり世界中の人に受け入れられなければならず、そこが会社のマークを作るのとは違うところだと思うので、いかに国を越え言葉を超えてコミュニケーション取れるか、というところが一番難しいところでした。
長野オリンピックの採用されたデザインは、コンセプトが雪の上に咲く花と人の輪と雪の結晶。花びらが6枚あるのは、雪の結晶の六角形から来ています。雪の結晶と人の和と花をモチーフにデザインしましたが、そのモチーフになる花、人の輪、雪の結晶は、そのどれを取っても世界中で同じイメージで形も同じ。元々のコンセプトが世界中の人が見てもわかるモチーフだったというのは共感を得られたし、加えてポジティブなイメージで良い印象を与えました。
リサーチの中でモチーフにするものを考えていて、冬のオリンピックにふさわしいモチーフというところで考え、オリンピックの歴史もあって、今の時代にどういうものがいいかとか、いろんなことを考えながら、その3つに絞り込んで形を作っていきました。用いるモチーフはポジティブなものがいいです。ネガティブなものでやると、やはり共感を得られないので。
科学、化学構造式、神秘性や風水パワーが融合したデザインに
― プリニオリーバの場合、どのようなアプローチでデザイン開発を進められたのですか?
篠塚: プリニオリーバは、プリニウスから取った名前ですが一体どういう人なのか?僕は初めて聞いた名前なので、調べてみると科学者だったのかと。そういうところを勉強すると、何か凄く科学的なイメージが浮かんできたんです。アカデミックなイメージとか、ヒストリカルなイメージとか、プリミティブなイメージとかが頭に浮かんできて、でも化粧品だし女性に受けるような感じも入れなきゃいけないとも思っていましたが、やはり優先するのはそっちの方だろうと。
研究の結果など、化学のイメージがあったので、あの六角形の化学構造式、何かそんなイメージを入れたいなと思ったんです。あとはオリーブの持つそもそものパワーみたいな、神秘的なところも出したいなと。形に意味がないといけないというのを考えながら色々やっていて、化学の六角形も思い浮かべながら、そこに何かパワーを感じる要素がないかなみたいなところで八角形が出てきて。
中国でも大事にされて、風水でも八角形って凄くパワーがある形でもあるし、日本でも八という数字は末広がりで縁起の良い数字ですので、八角形を使おうと。八角形のパワーをもっと強くするために、八角形を重ねようと思い、重ねながら何か女性に受ける華やかさみたいな、ダイヤモンドカットみたいな模様になるかなと思い考えたのがこの採用された形です。八角形は全方位からパワーを吸収して、全本位にパワーを出し続けるという意味合いがぴったりだなと思って。ロジカルに考えた上で出てきた形が八角形だったという感じですね。
服部: 東洋や日本のパワーは、私の中で大事にしていたし思想の軸になっている部分があったので、ローマ、オーセンティック、正当性、オリーブのパワー、研究についてお伝えしたところから出てきたものの中に風水だとか、日本でも意味を持つ八というのが入っていて、これ話していないけど大事にしているところが前面に出ているなというので、ちょっとびっくりした覚えがありますね。
篠塚: 8には結構こだわっていました。
服部: お伝えしていたこと、オリーブの力、歴史で文化に立脚していること、それを土台に研究を重ねているけど、単なる先進科学だけのことじゃない、歴史や正統性が盛り込まれつつオリーブの、そしてうちの会社の歴史、更に私個人としての軸にしている思想を反映していただいているという印象がすごくありました。
【対談Vol. 2に続く】
篠塚正典氏 Profile
1960年東京生まれ。多摩美術大学を卒業後、アメリカへ留学。カリフォルニアの美術大学アートセンター・カレッジ・オブ・デザインにてグラフィック/パッケージデザインを学び、卒業後、世界最大のブランディングデザイン会社ランドーアソシエイツ社にてデザイナーとして活躍する。1993年に1998長野オリンピックのシンボルマークデザイナーに決定する。1995年ブランディングデザイン・パッケージデザインを専門とするデザイン会社「IDEA CRENT INC」(イデア クレント社)を設立する。国際的なセンスに支えられたブランディング・パッケージデザインを多数発表している。業界では常に斬新なアイデアを提供するデザイナー、依頼が殺到するデザイナーとして注目を集めている。
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